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青山学院大学 須田敏子教授 インタビュー

グローバル化・ダイバーシティ考察(後編)


前編の内容
 1.激動の世界環境、追いつかない人事制度・施策・管理
 2.人事評価と賃金制度・人件費
 3.年功序列の人間関係
前編をご覧になりたい方は こちらからどうぞ。

 

須田教授

4.男性の価値観

日本は女性を活用していないにもかかわらず、経済が発達しているってことは、ちゃんと活用したらもっと上がる。その意味では他の先進諸国に比べて、日本の潜在力はあると考えられます。ちょうど消費税と同じですよね。日本の消費税はヨーロッパに比べて低いから、消費税を上げる余力があり、財政再建余力もあると考えらえている。

男性の雇用がかなり不安定になってきていることは女性活用にとっては追い風ですよね。欧米諸国で女性の社会進出が進んだひとつの理由は、男性ホワイトカラーの雇用不安定化にあったわけですから、同じことが日本でも起こっているということでしょう。
これまでのように男性が家族をもう養っていけなくなっている。それに関しては、MBAの社会人学生と日々接していて接していて感じるのですが、年齢に関わらず、自分が養うんだって言う価値観から脱却した男性は幸せになれてるようです。

「私の嫁選びの基準は生活力があるかどうかですよ。そのためには資格をもっているかどうかは嫁選びの決め手ですね」と話す人もいますし、「夫である自分に何かあっても大丈夫みたいな収入を確保している人と結婚して、ある程度収入を確保して起業した」という人もいます。こういう価値観を持っている男性が幸せみたいな気がします。
逆に、自分の転勤にあわせて妻が仕事を辞めて専業主婦になってしまい、内心どうしようと思っている、という人もいる。この先も会社の中でどうなるかわからないなかで妻に専業主婦になられてしまい、困っている。でも専業主婦になることを了解してしまったので、いまさら困ったともいえないし、といった具合です。
妻が働いていたほうが、男性にとってはキャリアの選択肢が広がり、精神的にもゆとりができるようです。

男女に関わらず働くのは大変じゃないですか。そういう中で仕事を辞めたくなっちゃう人はたくさんいますよね。男性でもたくさんいると思うんですけど、社会的に許されないから仕方なく働き続けているという人は少なくないと思います。これに対して女性の場合は、仕事を辞めることが許されている。だけど、この10年くらいで家計の受け皿としての夫の経済力・余力がなくなってしまっているんだと思うんですよ。
こういった中で、男性も女性も古い価値観から脱却したほうが幸せだと思います。

職場での問題として、男性は、女性にいい格好したいっていうのが強くて、本音を言わない点も挙げられると思います。男性が本音を言わないから女性は自分の弱点、悪いところを知らないで年とっちゃうのですね。
MBAに来ている社会人男性の方々から聞くのが、女性には嫌われたくないので、本音は言わないということです。特に若い女性には言いたくないようです。なんでわざわざ自分が嫌われるようなこと言わなきゃいけないのと思っている。で、言わない。

女性も若くてかわいいうちはいいけど、残念ながらみんな絶対かわいくなくなる。歳は絶対に平等にとるんだから。かわいくなくなってしまえば、仕事の実力で認めてもらうしかないのですから、仕事ができるようにはならにといけないのに、男性は女性が間違った行動をとっても注意しようとしない。なんで僕が言うのって思っている。そのくせ若くなくなってかわいくなくなる時期には、職場での行動を理解してほしいと思っているのです。 だけど指摘されないので、女性は気がつかない。気がつかないまま年数を経てしまう。それで組織の論理を知らないローパフォーマーということになってしまう。この悪循環をぜひ管理職には分かってほしいなと思います。

経済の変化ってすごくスピードが速いですよね。人間の価値観って、そのスピードが追いつかないですよね。 だから、そこのところでギャップが出ちゃって、うまくいかない状態が生まれてきてしまうのでしょう。
このままいくと本当に少子化で労働力は不足します。政府にも企業にも施策を変えてもらって、個人も価値観を変えていく。そして働ける成人が全員が働いて、ちゃんと税金や社会保険料払っていかないといけない。男女関わらず完全雇用を実現して、政府収入を増やしましょうという北欧の生き方に学ぶべきですよね。
現状だと、税金や社会保険料を払わない成人の割合が高くて、このままいったらギリシャイタリア状態になってしまう。もちろん公務員制度改革など他の面でも変化が必要ですが、働くということについてみんなが純粋に経済の問題として捉えて、どっちに進んだ方が、日本が沈没しないのかって言う基準で考えてほしいという感じがしますね。

 

5.女性の価値観

管理職になるっていうのはやっぱり10年か15年くらいはかかりますしね。日本型人事管理のところで話しました通り、特に日本の場合はそんなに早く昇進はしませんから。キャリアを積んで結果を出すまでに時間がかかるわけです。
女性の管理職比率はもちろん企業により差はありますが、10パーセントもないのではないでしょう。企業が公表する女性の管理職の数字をみていて不思議に感じることが、なるべく管理職の数や割合を多くしようというこことなんです。組合員のリーダー層まで管理職に入れてカウントするということもおこります。他の面では、組織のフラット化やライン以外の管理職の数を減らしたりして、経営の効率化を図っているのに、女性になると急に水増しして数を多めにしてくるというのは、ちょっとおかしい気がしますよね。

現状では経営層・管理職に関しては、男性が圧倒的に多いですね。なぜ男性のほうが組織でうまくやれるのか、理由は多いと思いますが、そのひとつとしてよく指摘されるのが、呑みニュケーションも含めて、男性同士のいわゆるオールドボーイネットワークといわれるものです。男性同士だったら組織ではこうやったほうがいいという本音を話してあげるけれども、女性には話してあげないっていう内容をコミュニケートするネットワークです。 会社に入ったばっかりの新入社員の時代には男性も女性も組織での行動様式はわからないのですが、男性は男性の上司や先輩などに、こういうふうに立ち居振る舞いしたほうがいいとか、こういうふうにすると組織の中でマイナスになるよっていうことをなんとなく教え込まれて、組織の中で社会人になっていくんだと思います。だけど女性はそういうネットワークからはずれてしまっているので、浮いちゃう行動をとるんですね。

正直なんですよ、女性の方が。思った通りに言わなきゃいいのに、と感じたことがたびたびありました。言わない方が得なんだから言わなきゃいいのにって思うことを平気で言ってしまったりするんです。
それから感情を出すっていうのは、組織ではマイナスですよね。男性はそれを知ってるから感情を出さないわけで。男性も女性も同じようにみんな感情的ですよね。好き嫌いはあるし、足引っ張るし、妬むし。

実務家時代の経験からいうと、私にいろいろ教えてくれたり、引き上げてくれたのも男性だけど、足を引っ張ったり妬んだり酷いことしたのも男性ですよ。だけど男性は見えないように、巧妙にやる。女性はぱっとやっちゃうんですよ。だから、そういうことをするのが、組織人になりきれてないっていう証拠でもありますが。そういうことを教えてくれる人がいなかったっていうことだと思います。

人事の方からダイバーシティ講演などの依頼を受けた際などに、よく言われるのが、「女性は管理職になりたくない」ということです。これはとんでもないことで、管理職になるとかならないっていうのは、本人が選択する問題ではないんですね。管理職という言葉が含む内容は、ラインで昇進していくことだけではなく、キャリアを広げる、スキルの幅を広げるなど広範な内容を含むと思います。

ずっと同じ事しかできない人間を組織は必要としなくなります。同じ事を続けるなら若い子の方が、回転早いし、覚えるの早いから。年齢が上がると新しいもの吸収する力は少なくなってくるし、普通にしてたらスキル落ちるんですよね。そしたらもう、組織にとってその人いらないわけですよ。

常にキャリアを上げる、スキルの幅・質を上げていかないと。ラインで昇進していかなくても、いずれかの分野でリーダーシップを発揮することが組織で生き残るためには必要です。 組織で成果だすためには、一人だけで成し遂げられることは少ないし、専門性といっても、一人で高いパフォーマンスをだせるほどの専門性を持っている人はめったにいないでしょう、ですから、組織で成果を出すには人を動かす、人に影響を与えることが必要です。これは何らかの面でリーダーシップを発揮するということを意味します。
これに関しては彼女に聞くのが一番いいとかね、こういうところではリーダーシップを取ってもらえるって、他の人に思ってもらえる人間になっておかなきゃ、組織は必要としないんです。そしていつまでも組織で必要とされ続けるためには、キャリアのスキルのブラッシュアップが必要なんです。

まあ3.4年がひとつの目安でしょうか。3年4年たったら、それなりにキャリアやスキルが上がる。このサイクルを続けていくことが必要ですね。
会社が、これまでのように安泰であなたに雇用の場を提供してくれると思わないこと。そんなことはもはや期待できないことだと思います。これは男女関係ないですね。だから「私は管理職にはなりたくない」というような自身のキャリアアップ・スキルアップを放棄するような選択は、個人の側からはできないんです。そんなことをしたら組織にとってはいらない人間となってしまいます。
だから常に、どういった形でもいいから企業にとって必要だ、組織から選抜され続けなければ、その人はもう必要なくなるわけですよね。そのためには、ちゃんとスキルをアップする。リーダーシップをとる。リーダーシップをとれるようになっておかなければいけないわけですよね。
パフォーマンス以上の給料なんて企業は払わないですから。ずっと給料とり続けたかったら、管理職が嫌だなんて選り好みはできないと思いますね。

須田教授

6.ニコニコした人・社会

イギリスに数年暮らした経験から感じることは、日本社会は微笑みが少ない気がするのです。組織の中でいえば、年下の人や立場に関係なくニコニコしている、丁寧な言葉で接するとかね。お互いに気持ち良く生活するには、それが大切だと思っています。

たとえば面接に関して言えば、日本では面接官がニコニコして接することがないような気がします。私がイギリスで奨学金取得のために受けたインタビューでは、有名教授が面接官だったのですが、彼らはニコニコしていて、緊張するような感じじゃなかった。教授が自ら出てきてドア開けて「どうぞどうぞ」って、部屋に招き入れてくれて、すごくフレンドリーなんですよ。日本ではこうはいかないです。用もなく威張って緊張したりさせたりするよりも、ニコニコしていたほうが感じいいし、お互いに楽しいほうがいいじゃないかと思います。
買い物の場だと日本だとお客様はありがとうと言わないとかね。お互いにサンキューって言いあうことがない。でもお互いにサンキューといってニコニコしあったほうが、お互いにいい感じだと思います。

こういった日常の人間関係も含めて、日本では普通と思っていることが、普通ではない社会があるということ、それを知ることは、重要なことで、大げさにいえば人生を考える視野を広げてくれるものだと思います。グローバル化が進展する現在には、日本での当然と考えることに疑問をもってみることも必要でしょう。そのためには海外で生活してみる、仕事してみることが必要でしょうし、日本にいる海外の人とのつきあいも重要でしょう。

日常の人間関係から変えていってお互いにニコニコした関係となっていく。そのほうが居心地いいほうがいいじゃない。ニコニコしていない人、本人はまったく気づいていないと思いますが、教壇に立っているとニコニコしている人、真剣に聞いているらしい人(本当に真剣かどうかわわからないが)は、印象がいいですよね。不機嫌そうな顔をしている人には、「そんな顔しないほうがいいわよ、絶対損だから」とアドバイスしたくなりますね。もちろん絶対できないですけど。たとえば私が上司だったら、ニコニコしていて感じいいと思われたほうが得ですよね。

全般的に欧米の人たちは知らない人に親切で感じがいいという傾向があります。これはみなさんも感じていると思います。知らない人に対して感じよくふるまうかどうかは、社会の移動性度合と相関関係があります。社会の移動性が高まってくると、初対面の人に会う頻度が高まりますよね。そうすると初対面の人に感じをよくするようになる。そのほうが人間関係がうまくいくので、移動性が高くなるほど、初対面の人に対して感じよい行動をとるようになる。欧米諸国の中でもアメリカ人ってすごく初対面で感じいい、と感じたことのある人は少なくないと思いますが、私の人生であった中でも、アメリカの田舎で出会った人たちが、これまでの人生で出会った人の中で最も親切な人たちでした。

これも社会の移動性との関連があるようです。もともとアメリカは、イギリスからいった人たち、移民の人たちが、開拓していった。その歴史の中でいろんな人、新しい人と会っていく。それからどんどん移民を受け入れていくようになる。新しい人と常に会ってる度合いが高いので、新しい人と会う処世術を身につける。それが初対面の人に対する親切さ、感じのよさという文化を醸成しているという側面もあるようです。 ヨーロッパも移動性が高いんですよね。社会の移動性が高いと、初対面の人とうまくやろうっていうので、感じがよくてニコニコしている。

これに対して社会の移動性が少ないと、いつもつきあっている人たちはみんな知りあいなので、初対面の人に対する感じよさという意識が少なくなってしまう。これまでのところアジアは移動性が少ないけれど、たぶんこれからは移動性が増してくれば、アジア諸国でも初対面の人に対する感覚が変わってくるかもしれませんね。

国によって文化が異なることの最たる点は、男女の立場だと思います。これもイギリスにいて感じたことは、日本は男性に甘い社会なんだということ。白人社会は日本と違って、男性に厳しいですよね。男だから我慢しろっていうことが多い。
たとえば私の知り合いのベルギー人の博士課程の男性学生が、化学の実験をしていた時に誤って眼の中に薬品が入っちゃって病院行ったんですが、そしたら「レディファースト、順番あと」とか言われて、順番を後回しにされて、失明しそうになったということがありました。イギリスだけでなく西洋社会には多かれ少なかれこういった文化があって、男なんだから我慢しなさいっていうことです。
このように生命にかかわるようなことでも、平気でレディファーストとか言っちゃうんですよ。

私もイギリスにいた時には、タクシーを待っていて、もし前に女性がいなかったら、一番最初にいったという経験があります。
イギリスはレディファーストをしないと恥ずかしい社会。女性よりも先に歩いていることを人に見られたら恥ずかしい社会。特に社会的階層が高かったりインテリの方っていうのは、絶対に女性にはドア開けなきゃ、何が何でも開けなきゃといった社会です。
これに対して日本はレディファーストが恥ずかしい社会ではないかと思います。年配の男性だと特にレディファーストは恥ずかしいという意識があるのではないでしょうか。ニコニコしてレディファーストしなきゃ恥ずかしい社会と、日本のようにニコニコしたり、レディファーストしたりすると恥ずかしい社会がある。このように社会によって人間の価値観・行動は異なってきます。このように異なる価値観の社会があることを知ることは必要ですよね。
まあいずれにしてもニコニコしている社会のほうが、生きていて楽しい気がします。

 

・・・インタビュー後・・・

「共感できることがたくさんありました。世の中の当たり前を変えていくこと。これは、若手研修でもぜひ実践したいことだとかんじました。(野口)」

須田教授