新入社員研修の知恵プラス  

知恵プラス

富士宮市役所 稲垣康次様 インタビュー

稲垣様

*** 稲垣康次様 ***

富士宮市役所 保健福祉部 福祉総合相談課 主任主査。
主に「認知症」「包括ケア」「総合相談」のキーワードに関連する福祉について担当する。平成19年度人事部より異動、着任。
福祉総合相談課での既成概念を覆す、思いのこもった取り組みについては、NHKへの出演をはじめ、他県行政・自治体からもセミナー出講依頼、視察依頼を多数受ける。



 

「これからの求められる福祉サービス」

介護保険制度導入の目的は、要は施設から在宅ということですよね。
それはどういう事かというと、施設から在宅ですから、集団から個、集団の一律なケアから、パーソナルなケアへ。ということなのですよ。在宅ですから。
そうなった時に、介護保険制度でホームヘルプサービスを使うにしても、週5日1日1時間のホームヘルプサービスでは、その人の生活の一部しか見られないわけです。また、その1時間のサービスにしても、介護保険というのは保険料からサービス給付する仕組みなので、細かな取り決めがあるのです。例えば、要介護者の奥さんの食事のついでにだんなさんの分まで作ってはいけません。とか、電球の取替えや家具の固定、庭の掃除などは対象外ですとか・・。
デイサービスにしても、機能訓練でなければ外出が認められないケースがあります。全員決まった時間に機能訓練室に集められて、みんなと同じように体操をしなさいといわれても、それを喜ぶ方がはたして何人いるのでしょうか。

やはり、これから「求められる福祉サービス」というのは、施設サービスでも在宅サービスでも、事業所自体が地域の中にある特別な事業所ではなく、普通に地域の中に溶け込んでいくようなものをイメージしています。そこを利用されている方はそこに通いながら地域の人とおしゃべりをしたり、散歩をしたり、地域の方と触れ合ったりすることができる。
ある地域では、デイサービスを利用されている人が、事業所に行ってから近所のカラオケ屋に行き、昼間からカラオケを歌いママさんと親しくお話をしてから、デイサービスに戻り帰宅すると言った話も聞きました。

そのようなご利用者主体のサービスが私たちのイメージする「求められる福祉サービス」なのです。

つまり、事業所内の閉ざされた空間で、特別な人が介護を受けている、そこの事業所の利用者が飛び出し外を歩いていたら、「早く事業所に戻さなきゃダメだ!」。このような状況の中で職員を育てようとしても、よい職員は育たないということです。

 

「良い福祉施設・立派な事業所」

良い福祉施設、立派な事業所は何をしているのだろうというところですよね。各地域の立派な事業所に共通しているのは、地域の人との交流の中でスタッフを育成しているところです。例えばスタッフが地域の人に働きかけて、場合によっては協力金を集めて学習会を開催していたり、事業所の敷地内に畑を作り利用者さんと地域の方がいっしょになって野菜を収穫したり、施設の中に地域交流室を作って一般高齢者向けの予防教室を開催したり、ご近所のお母さんからの要望で、障害児を預かり、施設に入っている高齢者といっしょになって託児をしているような事業所も出てきています。

私もいろんな地域のいろんな事業所スタッフさんとお話させていただきましたが、このような取組みを行っているスタッフさんは、やはり意識が高いです。人を見てケアをしているイメージがあります。



稲垣様

「良い福祉施設、立派な事業所の人材育成・マネージメント」

私はよく地元の事業所のみなさんと食事にいくのですが、私が驚かされるのは、マネージャー人事です。一般的に私の思い描くマネージャーとは、部下の仕事を掌握して、人的配置などを的確に行うようなイメージを持つのですが、地元の魅力ある事業所の方々は、どうやら私のイメージと違う観点でマネージャー人事を行っているようなのです。「えっ、この人を本当にマネージャーにするの?」と思うような方を抜擢しているのですが、施設長は「これが育つんですよねー」と言われるのです。

この施設長が言うには、一人のお婆さんを見て「おばあちゃんどう~?」などと裏表なく声をかけてくれる人をマネージャーに据えているのです。
「マネージメントってわかっているのですか」と私が聞くと、施設長は「私は影日向のある人が一番嫌いなのです。だから私が見ている前で、おばあちゃん~ってやっていても、私がいないところでは冷たい対応をしている職員が一番嫌いなのです。でもわかるのですよ。だって利用者に好かれていませんから。だから私の前で、おばあちゃん~ってやっていても、おばあちゃんは嫌がっている。そういう人が一番嫌いなのです。だから影日向のない純粋な人をマネージャーに据えます。マネージメント能力は後からついてきますから」と言われます。
事業所の人の話を聞いていて、介護現場だから、やはりケアの原点を持っている人がマネージャーとして大切であり、経験で育つという気がします。

まずマネージメント機能を持っている人ではなくて、ケアができる人を見出し、その方をマネージャーに任命し仕事は現場で経験させていく。その人はいっぱい悩むのでしょうね。「自分はこうやってケアしたいのに、この若いスタッフは、ずるくて、私の思うようなケアができない」とすごく悩むでしょう。でもそこからマネージャーになっていくのだと思います。

要は「人を支援するのが介護現場」なんですよ。
そこに介護者も要介護者も自立者もありません。介護現場とは人を支援するところなのですよ。
そうしたときにですね、施設の敷居を高くして、介護現場が特別な人が来るところの場所として、施設の中で囲ってしまいそこで介護をしながらマネージメントを云々いっても、現状の介護現場では管理や育成は難しいです。とても資質が高い人を採用し、その方に目的意識を持たせ、マネージャーとして育成しようと思ったらできるかもしれませんが、介護現場は人手不足ですからね。まずできないです。

しかしながら、小さい事業所も大きい事業所も賢い施設長はどんどん地域住民と触れ合う経験をさせながら、地域住民とのふれあいの中で、施設の職員をちゃんと育てています。

あとはマネージメントですよね。
要は施設長や管理職のマネージメント機能の問題です。

富士宮市では、この前の12月に行政の職員が、市内全ての施設を1件1件まわり、「事業所の研修は頻繁に行われているけれど、施設長が参加されることが少ないから、今度は施設長を対象にした研修を開催しますので是非ご参加ください」とお願いして歩いたのです。その研修を2月末に実施しましたが、それでもほとんどの施設長が参加してくださらなかったですけどね・・・。
そのマネージメント研修で「マネージメントって何のためにするのか」という再確認を行っていったのです。
実は事業所毎に理念があるのですが大体どこの事業所の理念も本人本位のケアみたいなことが書いてあるのですよ。管理職は事業所の理念を実現するために、マネージメントするのですよね。
そこで理念を書いてもらい、その理念を実現するために、どのようにマネージメントして、報告し、どうやって啓発して周知していくかというマネージメント研修をやりました。

やはり、ケアというのは本人本位のケアをするために事業所の理念が掲げられていますから、それを目標にしていなければ、マネージメントというのは機能しないですよね。
例えば、理念や目標もなく、なんでもいいっていうところは、現場で拘束しようが虐待しようが報告も何も行われないですからね。

だからそういった意味で事業所の施設長クラスには、常に目標を掲げてやっていってもらいたいですし、そのために良いケアをしなければならないと思った時に、はじめて意味のある報告や連絡が行われるのだと思います。

だから私は報告だけがうまく行っていますという事業所もあまり信用していません。
「報告はあまりしていませんけど」という事業所も、雰囲気としてはちゃんと伝わりながらやっているなというのは感じるときがあります。例えばスタッフ間での連携ノートみたいのを持っていてしっかり確認をしながらやっている事業所というのにそれを感じることはありますが、そうした事業所は報告する質や内容が全然違います。
目指す方向がまず一緒なのですよね。
本人の事をちゃんとケアしたければ、自分が持っている情報は仲間へ正確に伝えておこうという意識が生まれるのです。
私は仕組みを創り、徹底しちゃんと担保しなければいけないと思っています。ご利用者と一緒になって一日過ごした人しか知りえない情報というのは絶対ありますし、その情報も共有されなければならないのでその情報を共有するための仕組みづくりなどがまた必要であると思っています。でも、今の事業所の現状は、仕組みより意識レベルをあげることを優先させなければならないということなのだと思います。

稲垣様

「ファーストステップは、人を見てケアするという意識をつくる」


私が福祉にきた当初は、事業所の方に、「人を知ってケアをしましょう」と言っても「そんなことやっていられるか」と、かなりの事業所の方から結構言われましたよ。
「あんたは福祉に来たばっかりだけども、現場がわかって言っているのか?」みたいな意見を結構言われました。
だからこれは市が強制してもしょうがないなと思い、まずは必要と感じてくれるまで時間をかけてやらなきゃだめだと思いました。

そこで、最初に行ったのが、介護保険事業所スタッフとのブレーンストーミングです。富士宮市には介護保険事業者連絡協議会というのがあるのですが、そこの役員さんたちが、市内の全介護職員に「介護現場のあるべき姿・本人本位のケアにおける問題・課題」等について記述式のアンケートをとってくれたのです。その協議会には「通所部会」「訪問部会」「施設部会」「グループホーム部会」「居宅介護支援部会」という5つの部会に分かれているのですが、各部会から7名ずつ出席していただいて、記述式のアンケートを1文ずつはさみで切り取り、模造紙にみんなでグルーピングしていったのです。そこで、部会ごとに「介護現場における問題課題」を整理していきました。それをもとに、部会ごとに研修基本方針と毎年の研修計画が作成されるようになり、市内の事業所をあげての研修会が開催されるようになりました。今では、年間約22回、のべ37,38日の研修会が開催されています。
また、国のモデル事業の中で、事業者連絡協議会の役員さんたちといっしょに、新幹線で博多まで行き、駅からはレンタカーに乗り換えて福岡県大牟田市や熊本県山鹿市を回ったこともありました。事業所の地域型支援センターの方々とは、大阪府豊中市や岡山県総社市などをまわりました。その道中でも事業者の方々とは、いろんな話をしながら、理想を語り合いました。最近では、事業者の方々の雰囲気もかなり変わってきたのではないかと感じています。

富士宮市には、1.5キロ先の神社まで一日四往復もお掃除に行くおばあさんがいらっしゃったのです。その方が息子さんと2人暮らしで、ヘルパーさんが一日一時間週5日入っていたのですが、それ以外の時間は、おひとりでお散歩されますので、おばあさんをご近所の方々がずっと見守ってくださっていたのです。ご近所の方の見守りが始まって一年半くらいたった後でしょうか、おばあさんのお散歩が徘徊につながってしまったことがあったのですが、実はその時に、ご近所で見守ってくださっている人たちは、ほとんどの方が服装を応えられたのですが、ヘルパーさんだけは服装がわからなかったそうです。
実は、そのことを他県のある地域で事例発表したところ、アンケートの中に「当たり前だ!」「ヘルパーにそんなことを求めること自体がおかしい!私たちは忙しいんだ」と書かれていたのです。私はヘルパーをしたことがないので何とも言えませんが、でもこの結果に対し私は、「認識はどうあれ人を見てケアをしてない」と思いました。だから人を見たケア、とにかくその人のためのケアを意識する。先ほど言った意識レベルとはこのことです。

もし「目指すものは本人のための本人に応じたケアだ」という職員が半分いれば、恐らく今やっている研修も形が全然違うものになってくるでしょうね。
今後は施設の中だけじゃなくて、地域と一緒に情報を共有するためのルール作り、仕組み作りにシフトしていくと思います。
そして次のステップは民生児童委員さんと事業所が、情報を共有するためのルールとか仕組み作りとか、そういう話に発展していくと思います。

今はそこの事業所の意識レベルをしっかりとしたものにしていくことが重要です。

私が福祉現場に来て一番最初に感じたのは、福祉現場の人は自分のことばかり話すなぁと思ったことです。
福祉職員や公務員もそうですがこれらの仕事は人の役に立つ事が前提にあるものだと思います。福祉現場なら、なおの事人の役に立つ事が仕事じゃないですか。しかし、主語がみんな「私が」になっているのです。自分がこれだけ介護しているのにとか、自分がこれだけ頑張っているのにとか。その「私が」が主語の中にある為に、ケアの本質が見えてこないのです。

本来福祉とは、誰々がどれだけ喜んでくれただとか、この人がこんないい生活が送れて嬉しいよとか、そもそもそういう話じゃないですか。
そのような中で最初に驚いたのが、かなりの方の主語が「自分」であった事なのです。
やはり事業所の長も、福祉現場の長でありながら利用者、従業員を優先せず自分を優先していたら、職員は次第に他の施設に移るでしょうし、ケアの現場にいる人でも、ケアする喜びを感じられなければ他へ移りますよ。たとえ気に入らなくて辞めたとしても、人手不足だからいくらでも就職口はありますよ。

個々の仕事の喜びをどこに求めるかですよね。やはりそれを良いケアに求めなければ、やりがいは生まれないですよ。だから意識なのです。

マネージメントと言った場合についても、「うちの事業所はこの時間レクリエーションをやるってことが事業所として決まっていて、自分はそこのスタッフに割り当てられて、やる気もない人が多い。この人を楽しませなければ」っていうことだけが事業所のマネージメントだというように考えてしまうのです。
そうではなくて、その方はそもそもレクリエーションを望んでいるのか?その方の趣味は?何をすれば喜ぶ?その方に必要な支援は?このような発想に転換していかなければ、利用者さんは喜びませんし、介護現場のやりがいとか充実って生まれてこないと思っています。


 

~ 後編(2012年8月頃更新予定) ~

「新しい介護のカタチにシフトしていくために」
「地域に溶け込む、認められるために」
「これからやろうと思うこと」
「一人の支援を全うする」
「若手職員の定着」